ツンデレ・ファーターターク(石田家の父の日)

Vatertag(ファーターターク)・・・父の日(ドイツ語)
読みは多分、こう読むんだと思う。
なんせ、ドイツ語の授業から離れて10年以上経ってるので、忘れ去ってること甚だしい。(笑)
正式には、Christi Himmelfahrt und Vatertagとか言うらしいけど、フィーリングが伝わればいいよね(笑)。

何故、ドイツ語なのかというと、滅却師はドイツ語を使うらしいから(笑)。
きっと空座町総合病院のカルテはドイツ語だな・・。

それはともかくいじります。
もう直ぐ父の日ですね〜〜。

それでこの親子をいじろうかと(笑)。
ではどうぞ。


石田雨竜が小学校4年生の頃だ。
教師から、恒例の「父の日にお父さんに、日頃の感謝の気持ちを表そう。」という、実に道徳的な課題を出された。

恒例であることからして、毎年のことなのだが、雨竜はこれまた恒例で毎年気が重かった。
無論、雨竜は地味で大人しくしているが、成績は常にトップだ。何をやらせても卆なくこなす秀才である。
そんな雨竜だが、この課題だけは苦手だった・・。


・・感謝の気持の表し方が分らないのである・・・。←小学4年で既にツンデレ(笑)

・・・趣旨は理解している。
「感謝の気持ち」という形式で、父に何かを贈ればいいのだ。
所詮は、僕たちはまだ子供だ。出来ることには限りがある。
先生も高いレベルは期待していないはずだ。

だけど・・・大体父さんが何をすれば喜んでくれるのかが・・分からない・。(笑)
去年はフォトフレームを作って贈った。
その前は、粘土のペン立てを。

・・だが、お父さんはそれらを見るや、酷い事を言って「ありがとう。」も言わなかった。
まるで、僕の贈った物が迷惑だと言わんばかりだった・・。
(・・まあ・・相手はツンデレ最終形態だからねえ・・)

・・何を贈ればいいのかわからない・・・。
・・父さんは何をすれば喜んでくれるんだろう・・。

女の子たちの中には料理を作る子もいるらしい。
だが、お父さんは忙しくて、家で食事をすることなど殆ど無い。
急に病院に泊まり込むことも多いし、その手は使えない・・。

悩む雨竜。
いくら考えてもいい案は浮かばない。
いや、何をあげてもお父さんは喜んでくれないのではないか。
いつもは真っ先に課題に取り組む雨竜が、今回ばかりは遅れに遅れていた。

「・・石田君・どうしたの?」
とうとう先生が聞いてきた。
「お父さんに・・何をあげていいのか・・分からないんです・・。」
沈んだ声でいう雨竜。すると、先生が優しく言った。
「何でもいいのよ。石田君が心をこめてあげたものは、みんな喜んでくれるはずよ?」
「そんなことありません。僕は今までにも喜ばれたことなんて一度もないんです。」

すると、先生は困ったような顔をした。
「きっと・・きっとだけど・・石田君のお父さんは素直に喜べないんじゃないかしら・・。」

「どうしてですか?理解できません。」←普通はそうだろうとも。(笑)
「なんて言ったらいいのかしら・・。恥ずかしいのよ。きっと。それで嬉しそうな顔を出来ないのかもしれないわよ?」
「・そうでしょうか・・。」
「そうねえ・・石田君のお父さんがよく使いそうな物にすればどう?
それなら、喜んでくれるかもしれないわ?」
「よく使いそうな物ですか・・・。
分かりました。考えてみます。」

それから雨竜は考えた。
お父さんが使いそうな物・・。
お父さんが使いそうな物・・か・・・。
お父さんと言えば・・メガネ・・。←爆笑
メガネ・。
メガネケースはどうだろうか・・。
・・ダメだ。あのお父さんの事だ。僕が作れるもので満足するとは思えない。←読んでる。
それに眼鏡を常時着用している者にとって、メガネケースの使用頻度は実はあまり高くない。←自分もメガネっこだから。

待て・・メガネ拭きはどうだろう・・。
メガネ拭きなら、日常使うものだ。
それに、これなら得意の裁縫で僕もすぐ作れる。
(小学4年で、パッチワークでベッドカバーを作った男、石田雨竜。)←伝説(ウソ)

落ち着いた色合いの柔らかい布地に、刺繍をするんだ。
よし!!これだ!!

それから雨竜は怒涛のように作っていった。
光沢のある紫紺のシルクをメガネ拭きに縫いあげる。←注)全て手縫い。
それから名前を今度は純白の刺しゅう糸で英語の綴り文字で刺繍していく。

「・・完ぺきだ。
これなら、お父さんも満足してくれるはずだ。」

完成品を見た先生はこう言った。
「・・・これ・・買ったの・・?」
あまりの出来栄えに僕が作ったと思わなかったようだ。
よし・・いける・・!!

そして、運命の日がやってきた。
その日は学校の帰りに、病院へ寄る。
父、竜弦に会うためだ。
丁度、竜弦は院長室に居た。

「・・ちょっといい?お父さん。」
「・・・雨竜か・・。何だ。」
いつも通りの冷たい反応。でもこれを見てくれれば、きっと変わる。
「今日父の日だから・・。これ・・。」

目の前に紙袋に入れ、リボンをかけられたプレゼントを置く。
「ああ。」
そのまま開けようとしない竜弦。反応が見たくて焦れた雨竜が言う。
「開けて見てよ、お父さん。」
すると、竜弦は如何にも不機嫌そうに息子をチラリと一瞥し、仕方がないと言ったように紙袋の中身を見た。

中には紫紺の見事なメガネ拭きだ。

「・・・・・・・。」
「・・どう?お父さん。」

喜んでくれることを期待して、雨竜の声が弾んでいる。

・・しかし・・。

「・・・縫い目が甘いな。
これでは、優秀な外科医にはなれんぞ。雨竜。
幅間隔は最大で1.5ミリだ。

優秀な医者になりたければもっと腕を磨け。」

「!!!!!」

・・・信じられないような冷たい言葉に雨竜の目が大きく開く。
目の前の父は、息子からの贈り物にはもう興味が失せたかのように、何かの書類に手をつけはじめた・・。

・・・また・・喜んでもらえなかったんだ・・・。

失意に沈む、雨竜。
「・・帰るよ・・。」
とぼとぼと院長室を出ていった・・。

メガネの下を手でこすりながら、病院を出る雨竜の姿が、看護師にその後目撃されている。


・・一方・・・。
その父はというと・・・・。

息子が部屋を出て行くと、おもむろに椅子から立ち上がった。
向かったのは、巨大な隠し金庫だ。

ここには、病院の権利書や、厚生労働省からの重要な通達などが入っている。
その上の更なる隠し金庫の鍵を開けた。指紋と瞳孔、そして暗証番号の最も厳重な金庫だ。

そこを解錠した竜弦。
一体何が入っているのかと言うと・・・。

そこには・・過去に息子から貰ったすべてのプレゼントが保管されていた。
そして、新たにここに今日加わるものがある。

紫紺のメガネ拭きだ。
刺繍に至るまですべてが手縫い。

腕が上がっている・・・。
純白の刺繍糸で縫い取られた竜弦の名。
そしてその下には・・・

「Danke,Mein Vater」
(ありがとう、僕のお父さん)

・・これがいけなかった・・。
どんな顔をしてこれを縫ったのだろう・・・。

考える竜弦の口から一言だけつぶやきが漏れた。


「・・・反吐が出る・・。」←注)最大の賛辞。


無論、メガネ拭きは厳重な金庫の中で保管されることとなる。
使われることはない。


否・・もったいなくて使えないのである。




その年の父の日は、こうして過ぎていった。





なんちゃって。

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