伝えぬ感謝(吉良イヅル)

「イヅル。明日休んでええで?」

市丸隊長に、いきなりの休日を言い渡され、思わず思考が止まってしまった。
重要ではないにしろ、明日も仕事はある。
一体どうしたのだろうか。

「明日・・といいますと?」
「命日やろ?明日。親御さんの。」

・・驚いてしまった。
僕はこれまで命日の日といえども、通常通り出勤していたし、休暇など取っていなかったからだ。
残業があって、遅くなった時もある。
しかしそんな日でも必ず、両親の墓には参っていた。

話したことなどなかったのに・・・。
いや・・・話のついでに出たことはあったが・・・まさか覚えておられるとは・・・。
今更ながらに、市丸隊長の記憶力に舌を巻いた。

「しかし・・・休暇を頂くほどでは・・・。」
「命日の日くらい休んでもええよ。
今までほとんど休みや取ったこと無いやろ?
イヅルは働きすぎや。」
「しかし、明日も仕事はありますし。」
「そんな重要な仕事やないやろ?ボクがやったるさかい、たまにはゆっくり墓参りしたらええ。」

半ば強制的にに休暇を取ることになる。

そして命日の日。
日のあるうちに、墓に参れたのは久しぶりだ。
そう思いながら、墓を訪れるとまた驚いてしまった。

一見して高級と分かる白い花が供えられていたからだ。
詳しいことは知らないが、少なくとも通りがかりの人が供える花ではない。

もしかして・・・市丸隊長が・・・。

いや、間違いない。市丸隊長しかいない。
何故か確信が持てた。

市丸隊長は、褒める言葉はてらいもなく言える方だが、部下を思いやる行動については実にさりげなくなされることがほとんどだ。
あまりにも見事にさらりと行動されるので、部下が気付かないことさえある。
そして絶対に、その行動についての説明はしない。
部下が気付いても気付かなくても、それは一切変わらない。


・・・間違いない。市丸隊長だ。

自分が持ってきた花を供えて、線香を上げ、手を合わせる。
隊長が持ってこられた、花の匂いがする。

父上・・母上・・。
僕は元気でやっております。
僕は三番隊の副隊長になれて本当に幸せだと思います。
市丸隊長は素晴らしい方です。
あ、もしかしてもうお会いされているのですよね。
僕はこれからも頑張ります。
どうか、見守っていてください。


こんな穏やかな命日は久しぶりだ。

・・そしてこんな幸せな命日は初めてだった。

・・翌日。

「おはようございます。」
「ああ、おはようさん。ゆっくり出来たか?」
「はい。おかげさまで。・・あの・・・」
「なんや?」

・・・ここで花の礼を言ったとしても、否定されるだろう。
・・・そういう方だ。
この方は。

「・・有難うございました。今日からまた、よろしくお願いいたします。」
「なんや、元気やな。ほな、頼むで?」

僕は、感謝を伝えない。

でも隊長。
この感謝の気持ちを、あなたの副官として仕えることにより、伝えたいと思います。
あなたほど、さりげなくは出来ないかもしれませんが。


・・・どうか見ていてください。


なんちゃって。

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