強さとは美しさと見つけたり(綾瀬川弓親)

僕は子供の頃、自分の顔が嫌いだった。
はっきり言おう。
大嫌いだった。
理由は簡単だ。

散々近所の悪ガキ共に、女みたいだだの女男だのと言われていたからだ。

ついでに、僕を女の子と勝手に勘違いした変質者に、痴漢行為をされた挙句、「なんだ男か。」と言われて、「けっ、騙されたぜ。」と捨てゼリフを吐かれてサヨナラされれば、自分の顔が嫌いになるのも仕方がないだろう?


僕はこの顔を憎んで育ってきた。


・・・そう。あの日まではね。

僕はすっかり自分の顔が女のような顔をして『醜い』と信じきっていた。
そして『醜い』顔を見られまいと常に下を向いて歩く少年となっていた。

そんな時だ。

ドン!!
僕はある往来で一人の男とぶつかった。
下を向いて歩いていた僕のほうが悪かったのだが、僕は人に顔を見られるのがイヤでそのまま立ち去ろうとした。
しかし出来なかった。
ぶつかったその男に襟首をつかまれ、引き寄せられたからだ。

「・・オイ・・人にぶつかっておいて、挨拶もなしかよ。」
見れはスキンヘッドの男だ。目つきも悪い。僕が一番苦手とする類だった。

「す・・すみません。」
目線が合わせられない僕に対して、その男は尚も言い寄った。

「なんだ?その謝り方は。ちゃんと俺の目を見て言え。」

ちゃんと謝ってるじゃないか。どうしてそんな事をいうんだ?
僕のことなんて分からないだろうさ。
君みたいな、何処から見ても『男』にしか見えないような男にはね。

段々腹がたって来た。
それでいつもなら絶対言わないようなことを口にしていた。

「だから謝ってるじゃないか。。」
「謝ってねえよ。ホントにワリィって思ってるんなら目を見て話せ。」
「そうやって僕を馬鹿にしているんだろう。」
「馬鹿にしてるだ?」
「この僕が女みたいな顔をしてるから馬鹿にしているんだろう!!」

そうするとその男は『何言っているんだ、コイツ?』と言うような顔をして、ようやく何かに気付いたようだ。

「ああ、そういや女みてえな顔してるって言えば言えるかもな。
ホントに男かどうか試してみるか。」
そう言うや、着物の上から僕の急所を握り締めてきた。
「な、何をするんだ!!放せ!!」
「何だ、結構『立派』じゃねえか。」

いうや、僕を投げ飛ばす。無様に転がる僕。
腰に手を当てて、ニヤニヤしながら男は僕を見ている。

「・・悔しいか?悔しければかかってきな。」

・・悔しい・・。
・・悔しい。
悔しい!!悔しい!!!

敵わないのは分かっていた。
しかし僕はその男に殴りかからずにはおれなかった。
何度も逆に殴り返され、地面を転がることになっても、立てなくなるまでその男に飛び掛っていた。


そして、結局僕は一度も一矢報いることも出来ず、仰向けで動けなくなっていた。
「結構根性あるじゃねえか。見直したぜ。」

こっちは青息吐息だっていうのに、全く息も乱していない。
悔しい。

「言っとくが俺は、別にお前の顔が女みてえだなんて思わなかったぜ。
綺麗な顔してんじゃねえか。

どっちかっていうと、卑屈になってるお前の態度の方がむかつくぜ。

どんなツラしてようが、男は強けりゃそれでいいんだよ。
強けりゃ、後は何でもついてくる。
金も、名誉も、自信も。
何もかも。

自信がなけりゃ、強くなりゃいい。
そうすりゃてめえの顔がどんなだろうが、どうでもよくなるさ。」

そう言い切った、その男には何故か僕は美を感じた。

そうか・・・。
強いと美しいんだ。

強さと美しさは背反するものじゃない。
同じものなんだ。

「なんなら俺と一緒に来るか?少しは強くなれるかも知れねえぜ?」


僕も・・強くなれるのか?

強く・・美しく・・。

「・・連れて行ってくれ。」

「よっしゃ。自己紹介がまだだったな。俺は斑目一角だ。てめえは?」


「僕は・・・綾瀬川弓親だ。」


そして僕と一角の珍道中が始まった。
そして今は、護廷十三隊の十一番隊に所属している。
僕も一角もね。

十一番隊は戦いに命を賭ける『喧嘩バカ』の集まりだ。

・・・美しいじゃないか。

男に生まれた以上、所詮男が目指すは強さだ。
強さををシンプルに追い求めるこの隊はもっともシンプルな美しさに満ちている。

そしてそのシンプルさが、この隊に強さを与えているのだ。

僕は美しいものが好きだ。


そして強さを求める一人の男でもある。

男と言う『いきもの』は生まれ落ちたその時から強さを求めるように、DNAに組み込まれているものだと僕は思う。

そのDNAの囁きに忠実にそしてシンプルに行動する。

そこに戦いは欠かせない。



・・・・そしてそこに勝利したものこそが強く。


・・・・強いものこそが美しいのだ。





なんちゃって。

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