ちょっとした敗北(ギンとイヅル)

三番隊の執務室。
今日は咳をする音が響いている。

咳の主は吉良イヅル。
明らかに風邪を引いているようだ。

「なんや調子悪そうやなあ。風邪か?」
「すいません・・。(咳)でも咳だけですから。」

言いつつ、またもや咳をする。

「そない無理せんでも休んでええのに。」
「書類の量が、今回多いですし・・。
業務に差し支えるほどではありません。」

確かに今回片付けねばならない書類がある。
しかも期限の迫ったものばかりだ。

イヅルの仕事の処理能力は十三隊ある隊の中でもトップクラスだ。
のらりくらりと仕事をかわす上司のギンの分を、かなりの割合で引き受けていた。

咳はまだ続いている。
顔も赤い。

『こらあかんわ。熱も相当あるみたいやし。』

イヅルがいてもらわねば、困るのはギンだ。
書類仕事など、退屈な仕事はしたくない。

だが・・。

「イヅル。今日はもう帰り。」
「え?しかし・・。」
「隊長命令や。」
「僕の事なら大丈夫です。明日期限のものもまだ大分・・・。」
「イヅル。」

業務を続けようとするイヅルをギンが遮る。

「1分以内に帰らんと・・・。
裸に剥いて、外に放り出すで?」

「た、隊長?」
「ああ、あと57秒やなあ。」
「本気で仰っておられるのですか?!」
「勿論、本気や。ああ、あと50秒。

暖かくなったいうても、裸で外に放り出されたら流石に大変やろうなあ。」


そして、30秒を残して、イヅルは家に帰るべく執務室を出た。

残されたのは、ギンと明日期限の書類だ。
イヅルの机に残された書類の束を手に取り、自分の机につくギン。

明日期限のものだけでもかなりの量だ。

「・・・なんや、えらいボクらしゅうないことやってんなあ。」

思わず手に取った最初の書類に向かってひとり言をもらす。


その日のギンはちょっとした敗北感を味わっていた。




なんちゃって。

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