「動けぬ柱」朽木白哉

 

白哉は一番隊舎にいた。

「・・さて、朽木隊長。

・・・お主が此処に呼ばれた理由は分かるかの?」

声の主は、言うまでもなく山本元柳斎重國だ。
恋次とルキアが無断で虚圏に渡った事が明るみになるやいなや、山本は白哉を呼びつけた。

「私の副官が勝手に行動したことについては、こちらも非を認める。
以後、このようなことが無き様、周知を図るつもりだ。」

感情を完全に押し殺した白哉の声はいつもと変わらぬものだった。

「ほう、阿散井の事だけときたか。
ではお主の義妹のことについてはどうじゃ。」


「ルキアは十三番隊の所属。私のもとに居るわけではない。
妹とは言え、死神として自立している身だ。
私がとやかく言う立場ではない。」

「ふむ、妹が危険極まりない場所へ乗り込んでいったというに、表情一つ変えぬとは、いかにもお主らしいことじゃ。

確かお主の義妹も阿散井も犬吊出身の幼馴染であったな。
二人で示し合わせて虚圏に旅立ったようじゃ。」

「どのような経緯にて旅立ったかは預かり知らぬ。
だが、副官が不在とはいえ、六番隊の戦力及び能力が低下することはないと断言しよう。」
「そうでなくては困る。

しかし、阿散井にも困ったものじゃ。
隊長3名が抜け、戦力が低下している今、卍解を使えるものは一人として惜しい。
抜けて虚圏に行くなど言語道断じゃ。

・・・そういえば、藍染の謀反の際にも阿散井はお主に剣を向けたのであったな。
今度のことで、二度目じゃ。

少し、自由にさせすぎではないかの?
なにせ、戌吊出身じゃ。厳しいくらいで丁度良いと思うがのう。
所詮、野良犬は野良犬じゃ。
いくら首輪をつけたからと言って、行儀がよくなるわけではないからの。

言う事を聞かぬのであれば、遠慮なく叱ってやることじゃ。」

「承知している。」
間髪入れずに返す白哉。そんな白哉に、ふむ、と山本がいかにも『やはりまだ分かっておらぬようじゃ。』と言いたげだ。

「さて。さりとて、行ってしまった者はしかたがないことじゃ。
これからはこのようなことが無いよう、隊を引き締めていくことじゃ。
お主の、管理能力が問われるところじゃ。十分気をつけるよう、よろしく頼むぞ?朽木隊長。」

「承知。」
「それならば、話は終いじゃ。ご苦労だったの、朽木隊長。」

「・・・失礼する。」

帰ろうと踵を返した、白哉の背中に、ふいに山本からの声が飛んだ。

「まさかとは思うが・・阿散井たちが虚圏に行くのを、お主が見逃したなどということはあるまいな?」

白哉の背中に変化は無い。ぴくりともしない。
そして、背中越しに顔を向け、こう言った。

「ありえぬな。」
その眼は完璧な平常のものだ。

「そうか。それならよい。」
「他に何か?」
「いや、もうない。ご苦労じゃった。」

部屋から白哉が出ていき、扉が閉められる。

パタンという静かな扉の開閉音が聞こえた。

山本はその扉に向ってつぶやいた。

「顔色一つ変えぬか。・・・まったく、可愛げのない男じゃ。」


白哉は一人自らの隊舎へ向かっていた。
いつもはつき従う恋次の姿は、今は当然無い。

あの人間の子供に関わり過ぎているという認識は当然ある。
だが、恋次とルキアが、借りた借りを返したいという気持は理解している。
・・いや・・それだけではあるまい。
恋次も・そしてルキアも、あの人間たちをかけがえの無い仲間として認識している。

二人の虚圏行きの決意は固かったが、白哉が阻止しようと思えばそうすることはた易いことだった。
だが、行くのを黙認した。

日番谷から破面たちがいかに強力なのかは、報告として聞いている。
虚圏にはさらに強い十刃をはじめとする破面が敵なのだ。
恐らく卍解を使える恋次でも、勝ち進む確率は非常に低いだろう。いわんや、ルキアは・・だ。

だが、行かせた。
ルキアは同じような状況で助けられる側についこの間いたのだ。
そして命を一護たちに救ってもらっている。
止めれば、ルキアの誇りが死ぬだろう。
そして、それは同じく恋次も同じことが言える筈だ。

・・そして・・・白哉自身も一護たちに借りがある。
ここまで尺魂界が危機的状況でなければ、白哉も虚圏に向かうだろう。
しかし、隊長3名が不在のまま、強力な破面たちとの戦いに備えなければならない。

残った隊長は一人一人が尺魂界を支える巨大な柱に等しい。
一本柱が抜ければ、その分、他の柱の負担は増し、尺魂界はそれだけ危機に近づく。
瀞霊廷はおろか、流魂街、全ての者の命がかかっていることだ。


・・・抜けられぬ。


護廷十三隊が防御の姿勢を取る以上、白哉は動けない。


・・動かぬ事が柱の役目だからだ。


『今頃、あ奴らは何をしているのか・・。』

死と隣り合わせのはずだ。
一瞬たりとも気は抜けまい。

けれども・・心のどこかで自由に動くことが出来る二人を・・



・・・羨ましく思う白哉がいた。



なんちゃって。

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