浮竹の失敗(浮竹十四郎)

・・・『温泉』。

言葉を聞くだけでも、何故かほっこりしてしまう魅惑の言葉・・。


・・・『温泉』。
キライだという者はあまりいないと思われるが、好きのボルテージは基本的に年齢と比例すると思われる。

・・・『温泉』。
それは、隊をまとめる重圧と日々戦う、護廷十三隊、隊長陣にもまた暫しの癒しを与えるものなのだ・・・。


もちろん、浮竹もその例外ではない。
明るい性格ながらも心労の耐えない浮竹だ。
温泉でのリフレッシュは重要なものであると考えられる。


うららかな秋の日のこと。
浮竹が休養を兼ねて、近くの温泉に入っていた。
露天風呂である。
木々は、紅葉と呼ぶにはまだまだ早い。
しかしならがも、日差しや空の色には明らかに秋の季節が色濃く感じられる。

「ああ・・いい天気だ。」
人のいない温泉。
泉質は単純泉。
ようするに普通の水が地熱によって温められた温泉だ。
いわゆる温泉らしい硫黄臭さや、成分はないが、刺激が少ないため浮竹にはちょうどいい。
湯はあくまで透明。そして無臭。

気兼ねなく足を伸ばすくつろぐ浮竹。
肺の病で床に伏しがちではあるが、その肉体を見る限りでは病弱さは感じられない。
決して付きすぎではない、しかし戦う筋肉に覆われている。

不意に気配を感じて後ろを振り向くと、珍しくも十番隊隊長、日番谷冬獅郎がいた。
日番谷もこちらに気づき、まるでまずい相手に会ったかのように、眉の皺を深くしている。

「やあ、日番谷隊長じゃないか!
君もひとっ風呂浴びにきたのかい?」
気さくに話しかける浮竹。
これもいつもの事だ。

「やっぱりお前か、浮竹。
道理で外に虎徹と小椿がいるはずだ。」

「あいつ等が?ヘンだな、来ないと言っていたんだが。」
「よくは知らねえけど、喧嘩してたぜ?
『アンタだけなんて絶対ダメだかんね!』とかなんとか言ってたな。」
「やれやれ。困ったヤツらだな・・。」

かけ湯をして、湯に入ってきた日番谷隊長。
しかし、5分もすると直ぐに上がってしまった。

「もう上がるのか?!」驚いた浮竹が問う。

「ああ。俺はもういい。」
日番谷が当然のように答える。


もしや・・・浮竹がいるから日番谷は早々に湯から上がってしまったのか・・?


・・そうではない。
熱い温泉に長い時間、浸かれないのだ・・。
なぜならば・・・頭は大人でも、体はお子様だからである。
体も小さい上に、体温も高めのお子様の肉体・・。

うっかりすると、のぼせてしまうのである。
無論、そんな余計な事は日番谷は言わない。(笑)


「浮竹、病人に長湯は禁物だ。
お前も、程ほどで上がれよ?」

「ああ、分かった。ありがとう、日番谷隊長。」

脱衣所で、日番谷が着替えを済ませる頃、浴室との扉のほうでガタリと物音がした。
見れば、浮竹がフラフラしている。
明らかに湯辺りだ。
「やあ・・まだ大丈夫かと思ったんだが・・・少しのぼせてしまったかな・・。」

グラリと浮竹の体がかしぐ。
「馬鹿か!てめえは!
座れ!立つな!

おい!小椿!いるんだろう!入って来い!!」
「はい!!」

外にいた小椿が、怒号を聞いて、すっ飛んで入ってくる。
「ああ!隊長!!どうしたんスか!!」

「なんか飲むもん買って来い!ただの水はダメだぞ!出来れば塩分が含まれてるものにしろ!」
「わ・・分かりやした!!」

「す・・すまん、日番谷隊長。」
「いいから寝てろ!」

ますます眉の皺が深くなった日番谷に怒られ、流石の浮竹も反省気味だ。

「買って来ました!ポカリでいいっスか?!」
「よし。飲め、浮竹。」

部下が買ってきた飲み物を一気に飲んで一息ついた浮竹を見ると、日番谷は氷輪丸を抜いてこう言った。

「俺はこの後仕事があるから先に帰らせてもらう。

浮竹は少し休めば大丈夫なはずだ。
休める所を作っといてやるから、少し横になってろ。」

そして、氷輪丸で何かを出して去っていった。

「・・隊長・・これって・・。」
日番谷が残していった、浮竹の休める場所とは・・・。



「どう見ても、氷の棺だな・・・。こりゃ。」
クリスタルのごとくキラキラと光る氷で出来た棺。
自分が忠告したにもかかわらず、のぼせてしまった浮竹への、ちょっとしたイヤミが覗く作品であった。

「・・そういえば・・白雪姫がこんな中で眠ってる絵本を見たことあるんだが・・・。」

「・・・そうっスね・。」

以前、砂で浮竹の棺を作ったことのある小椿としては、とてもコメントできない浮竹の呟きであった。。。




なんちゃって。

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