宴の夜(十三番隊)

10月27日。

毎年この日は、十三番隊執務室においてささやかな宴が開かれる。

今は亡き副隊長を偲ぶためだ。
かといって、この日が命日という訳ではない。

亡き副隊長、志波海燕の誕生日なのだ。

この日に海燕を偲ぼうと言い出したのは、今は三席の清音だ。
「命日なんて、副隊長らしくない。
どうせなら誕生日にお祝いしましょうよ!!きっとその方が副隊長も喜びますよ!!」
そういって、海燕が亡くなった翌年からこの宴は開かれるようになった。

この日は大体、清音と仙太郎が大酒を呑み、海燕の悪口を大声で言い合うというのが恒例になっているようだった。
最初の頃は、悪口を言っていたはずの清音が、泣き出してしまい、そのままつぶれるまで飲むということも多かったが、今ではそれも少なくなった。

ようやく、海燕の死を穏やかに受け止められるようになったのだろう。

有志で祝うものなので、参加義務は無い。
ただ、彼を知るものは自然に集まっていた。

この年も10月27日はやってきた。
五番隊隊長の藍染をはじめ、三番隊隊長の市丸、九番隊隊長の東仙の反逆という、大事件もあり、護廷十三隊はいまだに騒然としていたが、それでも宴は行われた。

そして、この年より今まで姿を見せなかった者が、新たに参加するようになる。
朽木ルキア。
ホロウに乗っ取られた海燕に刀を突き立て、彼を解放したのは彼女だ。
しかしながら、ルキアはそのことが深い傷となっていた。

彼女もようやく、海燕の死を、そして自分の行為を受け入れることが出来るようになったのだ。
・・・・長かった。

この日、執務室に姿を見せたルキアに対し、参加者たちは何よりも暖かく受け入れた。
彼女が参加したことで、十三番隊に残っている痛みがまた一つ薄れたのは確かだろう。

隊長の浮竹は穏やかな笑顔で、隊の者たちを眺めている。


藍染の裏切りにより、また新たなる戦いが起こるのは必至だ。
衝撃は確かに大きかった。
だが、十三番隊の結束は更に強くなっている。

来年またこの宴が開けるかどうかの保証は無い。
ただ、故人となってもなお、十三番隊の絆を強めてくれている海燕に、浮竹は深い感謝を感じていた。


さて・・・その宴の最中のことだ。
十三番隊に訪問者がある。

取次ぎに出た仙太郎は、訪問者の顔を見て、度肝を抜かれた。
六番隊隊長、朽木白哉。そして供についてきたのだろう、副隊長の阿散井恋次だった。

しかし、浮竹は予想していたようで、
「白哉!!こっちだ!!入って来い!!」
と明るい声で呼びかけた。

しかしながら、十三番隊の呑んでいた者はものの見事に黙り込んでしまった。
非常時にも関わらず、宴を開いているのだ。
掟に厳しい六番隊の隊長の叱責は、当然予想したに違いない。

ルキアは氷の彫像のように固まってしまっていた。

「・・・新しい、各隊の防衛領域について、十三番隊とすり合わせたいとのことで来たのだが。」
「そうとでも言わなければ、お前ここには来ないだろう?」
「・・兄らと酒でも呑めと言うのか?・・・この非常時に。」

予想通りの、言葉に首を引っ込める仙太郎。

「そうだ。今日は海燕の誕生日なんだ。うちの隊ではこの日に毎年、あいつのことを偲んでやるのさ。今年は・・・いい区切りの年だからな。」

その言葉を、相も変らぬ無表情で聞きながら、白哉は義妹に眼を向けた。
ルキアはようやく、自らの過去を受け入れることが出来るようになったようだ。
最近見せるその表情にも表れていた。

「少しでいいんだ。お前も偲んでやってくれないか?」

白哉の副官である恋次は驚いた。
白哉が素直に座ったからだ。
普段であれば、そのまま帰るに違いない状況だった。

そのまま、浮竹に注がれる酒に口を付ける。

呆然とそれを見ていた恋次も、仙太郎と清音に無理やり座らされて、酒を注がれる。

それを見てルキアがほっと体の力を抜く様子が見えた。

白哉はザルだ。いくら呑んでも変わらない。
それでも半刻後には席を立った。

「もう帰るのか?」
「・・・いつまでも隊を留守にするわけにはいかぬ。・・失礼する。」
「そうか・・。ありがとう。呑んで行ってくれて。」
「いや・・・海燕には・・借りがあるゆえ。」
「借り?初めて聞いたな。」
「あの男・・・兄にも言っていなかったか。」
「なんだ?気になるな。」
「・・・・昔のことだ。失礼する。」

「兄様・・・海燕殿のために・・有難うございます。」
ルキアが声をかける。叱責は覚悟の上だった・・が、

「・・・はめを外さぬように。」
返ってきたのは・・・白哉にしては上等の・・優しい言葉だった。


恋次を供に回廊を自分の隊へ戻る白哉の足がふと止まる。


そこにはらしくもなく月を暫し見上げる、白哉がいた。

白哉たちが帰って1刻ほど経ったころであろうか。
朽木家の使いの者が、1本の酒を届けてきた。
主である白哉に届けるよう命じられたそうだ。



酒の銘は「粋花」。



白哉が海燕と月の下、二人で呑んだ酒だった。


なんちゃって。


おまけ。
「酒一本だなんて、朽木家の割りにシケたクセえですね。」
「そうよ!もっとガ〜〜〜ンと持ってきてくれりゃあいいのに〜〜。」
「あれ?何笑ってるんスか?」

「お前たち・・その酒の値段がいくらするか知っているか?」
「え?そんな高いんですか〜?」

「お前たち二人の1年分の給料で何とか買えるかどうかだ。」

「ええ〜〜〜?!!!これそんなにするんスか〜〜?!!!」
「ひえ〜〜〜〜!!!」
「ご、後光がさしてる!!」
「バカ言え!!テメエの気のせいだ!!」

「京楽が呑みたがっていてな・・・。ここへ呼んでもいいか?」
「絶対ダメ!!」
「俺らの分が無くなっちまうでしょうが!!」


「ははは。冗談だ。ともあれ、これは白哉の心意気だ。みんなでありがたく呑もうじゃないか。ルキア!お前もこれだけは呑め。」
「は、はい。」

「なんか、味なんてわかんないよ〜〜〜。」
「俺も・・・手が震えてるクセえ〜〜〜。」
「ちょっと!!こぼさないでよ!!?」
「てめえだって、手え震えてるだろうが!この鼻くそ!!」
「なんですって〜〜〜?!!」

今年もまた、10月26日は賑やかに過ぎていくようだった。


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