罠 (藍染惣右介)
・・・・私の居城、虚夜宮(ラス・ノーチェス) に振動が走る。
城の揺れ方から、『彼ら』が地下に現れた事が分かる。
「・・・来たか。」
彼らが来る事は予想していた。
・・そう。計算済みだ。
・・・君たちが来る事はね・・。
ウルキオラたちの現世での働きで、尸魂界は貝の様に中に篭り、篭城の構えを取るはずだ。
自分たち護廷十三隊が質・量共に圧倒的な劣勢であること、及び戦いの準備においても大きな遅れを取っていると知るだろう。
中央四十六室が全滅している現在、護廷十三隊の動向を決めるのは山本だ。
・・・あの老人の考え方など手に取るようにわかる。
・・いや・・正確には、私に都合のよい行動を取るように仕向けているのだがね・・。
それでも織姫を、こちらに連れてくれば、救出部隊がこちらに来る事は容易に想像出来ていた。
『彼ら』が来るだろう。
あの・・旅禍の少年たちが。
黒崎一護という少年は、阿散井くんや朽木ルキアとも親しくしていたから、恐らく彼らは救出に参加したいだろう。
しかし、それは出来ない。
なぜなら・あの老人がそれを認めないからだ。
彼らは、尸魂界の恩人であるはずであるにも拘らず、尸魂界から見放される事となる。
それでどうするか。
決まっている。浦原喜助へすがるだろう。
浦原がその話を受け入れるかどうかは、確定はしていなかったが、朽木ルキア救出の際、何も言わずに彼らを尸魂界へ送っている事からして、恐らく協力する確率の方が高い。
しかも、前例から十分な準備を経ずして飛び込んでくるはずだ。
・・そう思っていたのだが・・・
・・予想通りの行動のようだね・・嬉しいよ・。
地上には降りられないように、障壁を張っていたこともあってか、やはり地下に降り立ったようだ。
地下にはデモウラとアイスリンガーがいる。
彼らに敗北するようなら話にならない。
もう少し見所があると期待しているよ・・?
『彼ら』は、存外興味深い存在だ。
彼らの仲間である井上織姫は、人間でありながら神の領域をも侵す「事象の拒絶」という能力を持ち、クインシーの少年は絶滅寸前の希少種だ。
もう一人の人間の少年はそう大した事はないようだが、人間にはありえない豪腕の持ち主と聞く。
そして・・人間でありながら死神の力を持つ少年。
人間でありながら、隊長2人をも敗北させ、ウルキオラによると、また新たな能力を身につけているようだ。
新たな存在を探求する者にとって、彼らの存在は興味深い。
そう・・実に興味深いじゃないか・・。
戦闘能力の高さなどに興味は無い。
戦闘能力ならば、比較にならないからね。
私は興味があるのは・・『彼ら』の力の源だ。
何故、そのような異端の能力があるのか・・その能力の源とは何であるのか・・。
それこそが私の興味だ。
・・・さあ・・上がってくるがいい。
そして、私になるべく多くの能力を見せてもらいたいものだね。
君たちは多くの敵を倒しながら、こちらを攻めている気になってくるはずだ。
・・そう・・それでいい・・。
・・・これは猟だよ。
簡単な罠を使った猟だ。
罠を使った猟においては、獲物は罠に追い詰められている事を知らないものだ。
そう・・罠である事を知るのは、罠にかかった時なのだよ。
織姫は、遠くにいる君たちを脅すより、目の前で君たちが脅されている方が、心理的に影響があるタイプだ。
・・君たちには人質になってもらおう。
織姫が妙な気を起こさないための保険というわけだ。
・・ああ・・もちろん君たちのことも調べさせてもらう。
ヴァストローデの完成までも程近い。
・・・君たちには・・より完成度の高い計画への礎となってもらおうか。
・・・さあ・・上がってくるといい・・。
・・・『歓迎』の準備は既に、『整っている』のだからね・・。
なんちゃって。