焼き甘藷(かんしょ、別名さつまいも)  (十番隊)

「隊長〜〜!!いいもの買って来ましたよ〜〜!!」

十番隊執務室。
サボっていた副官が、帰ってきた時の言葉である。

「ああ、そりゃよかったな。
俺は今、今日仕上げねえといけねえ書類と格闘中だ。お前のな。」

天才児の隊長の盛大な皮肉にも全く意に介した所がないような乱菊。

「あら〜〜、すいません〜〜、いつもいつも〜〜。」
「悪いと思ってるんなら、ちゃんとやれ!」
「は〜〜い。お詫びに、ハイ、これv」

差し出されたのは・・焼き甘藷だった。
「仕事サボってこんなもの買ってやがったのか・・お前は。」
怒りのボルテージが上がってくると共に、なにやら部屋の気温は下がっていくようだ。
しかし、乱菊は気にした様子もない。

「いらないんですか?隊長。」

「・・・・・。
・・・・食う。」

最早何を言っても無駄だと思った冬獅郎。
どうせ無駄なら、素直に芋でも食った方がいいと思ったようである。

鮮やかな紫色をした外見。
二つに割れば、黄金色のほくほくした中が現れる。
芋の繊維がしっとりとしている。最も上手く焼けているしるしだ。

『・・・昔は・・よく食ってたな。』

冬獅郎はふと昔を思い出していた。


冬獅郎が育った流魂街は山里ののどかなところだった。
自給自足の生活。
秋が深まれば、毎日のように焚き火をし、そして甘藷を焼いていた。

風の強くない日。落ち葉をかき集めて火をつける。
最初は大人が最後まで付き合っていたが、慣れて大丈夫だとわかれば、後半部分からは子供たちに任せてくれた。

焚き火で芋を焼くのは実は難しい。
火がさかんに燃えているところに甘藷を入れても焦げるだけだ。
誰しもそれで、2度くらいは失敗する。
冬獅郎も火が収まるのを待ちきれずに芋を放り込んで、焦がした事がある。
幼馴染の雛森も、失敗したことがあるはずだ。

火が収まり、くすぶり始めた時に初めて甘藷を灰の中に埋もれるように入れる。
そして待つのだ。焼けるのを。

それでも3つに1つは、少し焦げすぎていたり、まだ硬かったりしたものだが、それでも喜んで食べたものだ。
甘藷にかぶりつく際には、落ち葉によって出来た灰の香りがする。

「おいしいね、シロちゃん。」
上手く焼けた方を必ず雛森は、冬獅郎に渡したものだ。

実は焼き甘藷は雛森の大好物だった。冬獅郎は知っていた。
それでも、年下の冬獅郎にいい方を渡す。


雛森はそんな優しさを持つ子供だった。


『・・・あいつ・・こういうの、食ってるのかな・・。』
その雛森は今、四番隊の救護部屋にいる。
冬獅郎の面会は、雛森の精神に影響を与えかねないとして、許可されてはいない。

「隊長?どうしたんですか?美味しいですよ?」
言われて意識を戻す。

食べてみると確かに旨い。
だが・・あの落ち葉の灰の匂いはしない。
材木の切れ端で焼いた、店の味がした。

何故か、故郷の焼き甘藷の焦げてしまった苦味を懐かしく思う冬獅郎であった。


ふと乱菊の方を見ると、紙袋の中一杯に焼き甘藷がある。
10はあるのではないだろうか。
「松本・・お前それ、全部食う気か?」

「当然ですよ〜〜。ここの焼き甘藷、人気があってなかなか食べられませんもん〜〜!」
言いつつ、3つ目の芋に突入した模様だ。


『天高く、乳肥える秋』

何故か、そんなフレーズが冬獅郎の脳裏に浮かんだ。





なんちゃって。

inserted by FC2 system