病の背に、背負いし重み(浮竹十四郎)

あの最悪の「事件」から1週間。・・・未だ十番三隊は重苦しい雰囲気に包まれていた。
将来を期待されていた副隊長と三席を一度に失ったのだ。無理も無い。
十三番隊は1週間の喪に服していた。
それも今日で終わる。
その間、隊長の浮竹は沈痛な面持ちながらも、職務を淡々とこなし、二人の追悼式を執り行っていた。
海燕はその人柄からか、交流も多く、個人的に追悼の式に参加するものも多かったと聞く。
そして、7日目の夜のことだった。

八番隊の執務室に、訪問者がある。
隊長の春水は、部下の七緒にとうとう捕まってい、溜まりに溜まった仕事をやらされている最中だった。
七緒が扉をあけると、訪問者は浮竹だった。
「浮竹隊長!!」
七緒は驚いた様子だったが、春水はそうではない。
「仕事中・・・みたいだな。」
「ボクに用だろ?浮竹。・・・七緒ちゃん、今日はもういいから、あがっていいよ。」
「・・・。分かりました。お先に失礼いたします。京楽隊長」
七緒は勘がいい。すぐに自分がいるべきではないと感じ取ったようだった。
直ぐに執務室から退出する。そして、春水と浮竹だけが残った。
「すまないな。仕事中に。」
「かまいやしないさ。まあ、そこに座りなよ。茶でいいかい?」
春水は実は器用だ。
七緒の前では不器用なオヤジを装っているが、実は自分のことは一通り出来る。今もさっさと茶を注いでいる。

「さてと・・。話を聞こうじゃないの。」
「実は・・・。」
「隊長を降りるってんだろ?」
「!!!・・・何故分かったんだ。」
「おいおい、何年の付き合いだと思ってるんだい。お前さんの考えてることくらい分かるさ。
今回の件でお前さんが責任を強く感じてるっていうことも、その責任を取る意味で辞めようと思っていることも、分かってるさ。」

浮竹は明らかに痩せていた。顔色もよくない。
暫く満足に寝ていないことは、春水には手に取るように分かった。

「京楽・・・。俺は・・・判断を誤ったのかもしれない。朽木が言っていたように、海燕を一人で行かせるべきではなかったのかもしれない。そうすれば、海燕は今頃・・・。
それだけではない。俺は朽木まで危ない目に合わせた。部下も満足に護れない者が、どうして隊長になど就いていられるだろう。
朽木を護ったのは海燕だ。ホロウに体を操られながらも、あいつは立派に仲間を護ったんだ。あいつはまだ若かった。能力もある。俺が・・・俺が代わってやれれば・・・!!」
「馬鹿なことは言いなさんな。海燕君に、一生傷ついたプライドを抱えて生きさせるつもりだったのか?海燕君はああ見えて、プライドを大事にする男だ。
プライドを護って死ぬのと、死んだプライドを抱えて生きるのと、彼がどっちを選ぶかなんぞ、お前さんが一番よく分かってるはずなんじゃあないの?」
「・・・だが、お前なら一人では行かせない。」

「それはボクのやり方だ。お前さんじゃあない。お前さんは、お前さんのやり方だからこそ、あんなにも部下に信頼されるのさ。
お前さんは部下の気持ちを何より考えてやれる。
それがお前さんの部下たちは、何よりもよく分かっている。
だからこそ、十三番隊の結束は固いのさ。
お前さんの背中には、ただの十三の文字を背負っているわけじゃあない。
十三番隊すべての隊員の信頼を背負ってるんだ。
確かに海燕君たちのことは不幸だった。だけれど、お前さんが隊長をやめるなんてこと、海燕君が喜ぶと思っているのかい?
残された隊員たちを、置いていけるのかい?」
「・・・・京楽・・。」

「もし、今回のことでお前さんが悔やむことがあるんなら、その分を残された隊員たちに注いでやりなよ。
その分、残された隊員たちをお前さんが護ってやればいい。それで十分さ。
もし、お前さんが海燕君たちのために今何かしてやりたいと思うんなら・・・。」
そう言って、春水は机の下から酒を取り出してこう言った。
「偲んで、呑んでやることだけさ。今日は呑めよ、浮竹。」
「・・・・京楽。・・・・有難う・・・。」

その日、浮竹は遅くまで春水と呑んでいた。

・・・一方。
八番隊の執務室の少し離れたところでは、清音と仙太郎がいた。
もちろん、浮竹はそのことを知らない。
「隊長・・・辞めないよね。」
「辞めるわけねえだろうが、この鼻くそ女。隊長が辞めるわけねえ。」
「そうだよね・・・・辞めるわけ・・・ないよね・・。」
「泣くんじゃねえよ。隊長が俺たちを残して辞めるわけねえ。」
「あたしたち・・隊長にいっぱい可愛がってもらってる。何にも・・出来ないのかな。」
「出来るさ。まずは強くなる。それで俺たちが反対に隊長を支えてやるんだ。」
「反対に・・隊長を支える・・?」
「そうだ。だから強くなろうぜ。今よりももっと。俺たちが出来るとしたら、それくれえのもんだ。ちがうか?」
「そう・・そうだよね!あたしたちだって、隊長のために出来るよね!!」
「ま、俺ほどには出来ねえだろうけどよ。」
「あたしの方が隊長を支えられるに決まってるでしょ?!」
「なに〜〜〜?!この鼻くそ女!」
「このワキクサ、アゴヒゲ男!!」

喪が明ける8日目の朝。
十三番隊を覆っていた闇も、ようやく朝日が射そうとしていた。

なんちゃって。

inserted by FC2 system