山じいと昼食を(山本、浮竹、京楽、日番谷)

・・藍染惣右介との決戦が冬と決まった尸魂界では、慌しく来るべき決戦へと準備が進められていた。

無論隊首会の回数は増え、今後の戦略を話し合う場も多くなった。

下手をすれば、尸魂界が滅亡の危機に瀕する一大事だ。
護廷十三隊をまとめる山本の責任はあまりに重い。


ある隊首会が終わり、解散した時の事だ。
山本が帰ろうとした浮竹に声をかけた。

「浮竹よ、たまには昼飯を外で取らんか。
ひとつ、わしがご馳走してやろう。」
「いいですねえ。ご一緒します。」

快諾する浮竹。そこにまた声が掛かった。

「何だい、山じい。ボクには誘ってくれないんですか?いやあ、寂しいなぁ。」
「お主は誘わずとも勝手に来るでのう。春水。
心配せずともおぬしも数に入っておる。」
「そりゃどうも。」

「あ!そうだ!!日番谷隊長!!君もどうだい?!」
浮竹が今しも部屋を出ようとしていた日番谷に声をかける。

ピタリと歩みが止まったが、背中は向けたままだ。
そして、ようやく首だけをこちらへ向けた。
額の皺には、「・・・浮竹・・てめえ、余計な気を回すんじゃねえ。」と書かれている。
無論、そう書かれてはいないが、表情全てが物語っている。

しかし、浮竹は全く気にする様子ではない。

「彼もいいですか?先生。」
「おお、日番谷か。無論じゃ。どうじゃ、おぬしも来ぬか。」

山本の日番谷に対する評価は、かなり高い。
他の隊長が渋るような仕事でも、日番谷は不承不承ながらもちゃんと請ける。
そして最善の仕事をしてくるのだ。
人材不足の今、日番谷の存在は山本にとってもありがたいものである。

「・・・・・。


・・・・分かりました・・。」

浮竹が態々日番谷を誘ったのには訳がある。
浮竹は日番谷の事を年の離れた弟のように思っているらしい。
可愛がりたくて仕方が無いといったようで、何かと会えば食べ物をよこそうとしたりする。
無論食事に誘うことも頻繁だ。

しかし、浮竹の思いも虚しくそのことごとくが、失敗に終わっていた。
日番谷からすれば、自分のことを可愛がりたいというのは、100歩譲って理解するとしても、同じ隊長同士なのだ。
ただでさえ、子供だとバカにされぬように気を使っているところに、浮竹の「お兄ちゃんに甘えてごらんオーラ」全開で近寄られるのは勘弁して欲しいところだった。

しかし浮竹は大人なので、どういう時なら断れないかも知っている。
だから、山本の前で誘ったのだ。
総隊長の山本が承諾すれば、日番谷は受ける。
それが大人の対応だからだ。


・・かくして、山本率いる昼飯隊が結成されたのだ。

といっても、店を決める権限は山本にある。

「先生、何処に行かれますか?」
「そうじゃのう、寒くなってきたゆえ・・そうじゃ、あそこにしておくかの。」

と言って山本は、それと知られた蕎麦の名店へと入っていった。

日番谷は内心ほっとした。
昼時の蕎麦屋ならば、長居せずに済む。
さっと食って、早々に退散する事にした。

「さて、何にするかの?」
「あ、ボク天麩羅蕎麦、温かいので。」
「じゃあ、俺も同じ物にしよう。日番谷隊長は?」
「ここ、カレー南蛮もあるよ〜〜?」

からかうような京楽のセリフに、ジロリと日番谷の視線が飛ぶ。
「・・俺は、鴨せいろで。」

『し・・渋いねえ・・!!子供が鴨せいろ・・!!』
驚いた京楽の顔に、フンといった日番谷の顔。


説明しよう・・。
鴨せいろとは、鴨肉を煮込んだ温かいつゆにせいろの冷たい蕎麦を付けて食べるという、チョイと粋な食べ物だ。
普通子供は頼まないだろう。←ちなみにオイラも食ったことが無い。(笑)←なんせ、好物たこ焼きな奴。

「先生は?何にしますか?」
「そうじゃのう・・。」
山本は珍しく悩んでいるようだ。

「山じいも連日の会議で疲れてるんじゃないの?精のつく物食べたほうがいいよ?まだまだ元気でやってもらわなきゃなんないんだし。」
「元気か・・。そうじゃのう。よし決めた。
注文を頼むぞ?」

来た店員に、山じい自らが注文を出す。
「この二人には、天ぷら蕎麦を。温かいほうじゃ。それからこの者には鴨南蛮を。

それからわしには・・。」

この時、浮竹、京楽、日番谷の予想は、誰しも鰻重だろうと予測していた。
元気が出る物と言えば、これしかない。
しかし、山本の口から出てきた注文は・・・

「わしにはお子様ランチを頼む。大盛りでのう。」

ブーーーッ!と飲んでいた茶を噴出したのは日番谷だ。
よもや、山本からこの言葉を聞くとは思わなかっただろう。

固まりかけた店員も、意地で急速解凍し、笑顔を引きつらせながら「かしこまりました。」と去っていく。

「・・山じい・・本気かい・・?」
「何をじゃ。」
「お子様ランチのことさ。」
「無論。」
「元気が出る物食べたらいいとは、確かにボクは言ったけどさ〜〜。」
「よせ、京楽。先生が食べたいんだ。それでいいだろう。」
「浮竹の言う通りじゃ。食いたいものを食うのが一番元気になるというものじゃからのう。」

・・かくして・・・注文していた物が運ばれてくる・・。


「天ぷら蕎麦はこちらの方ですね?お子様ランチは・・・。」
店員の視線が「助けて」と叫んでいる。
「わしじゃ。」
機嫌よく答えた山じいに、「お待たせしました。」と置く店員。
最後に鴨せいろが日番谷の前に置かれた・。

ガキの自分が鴨せいろで、ジジイの山本がお子様ランチ・・・。

日番谷の脳裏にひとつの迷句がふと生まれる。


「ジジイ、ランチに、孫(まご)ランチ←(お子様ランチのことらしい)」



「年のせいにして、食いたいものも食えぬようになるようではつまらぬものじゃ。
いくつになろうが、食いたいものを食う。

これが、元気の源じゃぞ?」

見れば、お子様ランチのチキンライスの上にはなんと<一番隊>の旗が翻っている。

『・・・初めて頼んだわけじゃないってことか・・。』


孫のような日番谷の横で、お子様ランチを満足そうに食う山本・・。

どう見ても、気まぐれを起こした爺ちゃんが、孫の頼んだ物を己が頼んだものを強引に交換しているようにしか見えなかった。

「・・・浮竹・・。」「・・なんだ・。」
「年を取るってえのは・・すごい事だねえ・・。」
「そうだな・・・俺たちが達観できるようになるにはまだ大分かかりそうだな・・。」



山本を除けば一番の古株も、山本の前ではまだまだお子様ランチのようである。






なんちゃって。

inserted by FC2 system