予想外の展開(ウルキオラ・シファー)

暗黒の閉次元にウルキオラは居た。

全ての光を奪われた世界だ。
それだけではない。全ての音も、全ても匂いも無い、ただ暗黒のみが広がる世界だった。

『反膜の匪(カハ・ネガシオン)』

藍染から、十刃に与えられた、特に問題のある部下を処罰するための制裁的な意味合いを持つ道具である。
これは、ただ殺すだけではその者が罪を償えないなどと判断された場合のみ使われる代物だ。
通常であれば、使用された者は永久にこの閉鎖空間で孤独と絶望のみを食らい続ける筈である。

・・・・・それをまさか十刃である自分が使われることになろうとはな・・。


暗黒の中で、冷静にその意外性を認めるウルキオラが居た。
何も見えないはずだが、翠の瞳は開かれたままだ。
その瞳には、感情の色はない。

元々、『反膜の匪(カハ・ネガシオン)』は十刃を対象として作られたものではない。
十刃の霊圧を封じ切れずに、いずれ閉鎖空間の壁は内側から崩れさることだろう。
しかし、今すぐにここから出られるわけではない、その間にグリムジョーは目的を果たすべく精いっぱい時間を使っている筈だ。


ウルキオラは冷静な読みが出来る。
これは、感情を一切排除した客観的な判断のみで結論付けられるからだ。
無論、それは絶対ではないが、まずその読みが外れることはなかった。


・・そう、今までは。


ウルキオラはある判断をした。
「井上織姫の監視」と「黒崎一護の処分」を天秤にかけ、「黒崎一護の処分」を取ったのである。

無論、最重要の任務は「井上織姫の監視」だ。
藍染のこれまでウルキオラに下った命を考えれば、崩玉の次に利用価値のある存在であると、少なくとも藍染は考えていることが分かるからだ。

当面危惧しなければならないのは、あの女が仲間を助けようと、脱出を図ろうとすることだった。
仲間が一人倒れるたびに、あの女の様子を伺うのはそのためだ。
だが、あの女は予想以上に馬鹿ではないらしい。
恐らく、逃げようとしても逃げれないことを解っている筈だ。そして、こちらもその事を解らしめている。
大人しく部屋で待機している筈だ。・・少なくとも黒崎一護が殺されるまでは。


「黒崎一護の処分」については、正直なところは何もウルキオラがやる必要はないという事は分かっていた。
あの実力では、いずれ死ぬ。これは明確だ。
しかし、黒崎一護は自分が生かしておいたが故に、虚圏に侵入者を許す結果となったのも事実だ。
自分が起因するのであれば、自分がその結果の処理をするのは当然だろう。
それに、黒崎一護を処分した後で、井上織姫の部屋に戻れば、井上織姫の暴走は抑えられるという自負がウルキオラにはあった。
あの死神を殺すのにはそう時間はかかるまい。
その程度の時間であれば、井上織姫の監視を解いても問題はあるまい。


そこまでの判断をして、ウルキオラは黒崎一護を処分しに向かった。
そして、必要な処分を果たした。
服を着替えねばならなくなったことは予想外だったが、井上織姫の部屋に戻るとより予想外の事態に陥っていた。

井上織姫の部屋は外壁が破壊されていた。
そしてその場にロリとメノリがいたのだ。
何より問題なのは、井上織姫の姿が無いということだった。

ロリとメノリが何をしに此処に来たのかは、直ぐに分かった。
藍染様の寵愛を嫉妬して、自分の留守を狙ってリンチ目的で来たのだろう。
・・・くだらん。

しかし、外壁の壊され方を見れば、これがこの女たちの仕業ではない事は直ぐに分かった。
そして、その者が井上織姫を連れ去ったことも明白だ。

「グリムジョー」
ロリの口からは連れ去った男の名が呻くように告げられた。


・・・黒崎一護の方ではなく、井上織姫の方へ来るとはな・・。
予想外だった。だが、自分に先を越されたと知って方針を転換したとも考えられる。
とすれば井上織姫に何をさせるつもりなのかは直ぐに分かる。

ウルキオラの足は黒崎一護の方へ舞い戻った。

グリムジョーは予想通り、黒崎一護を井上織姫に治させていた。
自分が戦うためだろう。
その行動には大いに問題があるが、ウルキオラに取って最大の任務は井上織姫の保護だ。
井上織姫を渡すように言った。グリムジョーの目的は黒崎一護を倒す事だ。
ならば、治療した段階で井上織姫の用はあるまい。

しかし、これもウルキオラの予想を反してグリムジョーは女の引き渡しを拒否した。

この時点で、ウルキオラはグリムジョーとの戦闘を決意した。

そして・・・、『反膜の匪(カハ・ネガシオン)』を使われることとなったのだ。


・・・予想外の事ばかりだ。
自分が、井上織姫の監視を一時的にしろ、離れる決断をしてから全てが予想外の展開となっている。

『・・いや・・今までの俺なら、あの女の監視を解くことなど無かっただろう。』

最重要なのは、あの女の身柄の確保なのだ。それが分かっていながら、戦いに行くなど今までのウルキオラならありえないことだった。
では、何故黒崎一護の方へ向かったのか。

『・・・それほどにあの死神と戦いたかったからか・・・・?』

自らへの問いに、『戸惑い』のようなものがウルキオラに生まれる。
だがそれが、本当に戸惑いなのかは解らない。
解らない感情だからだ。

いや・・・感情そのものがウルキオラには分らないものであったし、同時に・・・。


・・・・不必要なものであった。


「・・・・。」
閉空間では、思考を巡らせるしかない。
グリムジョーが井上織姫を解放しないと言う事は、まだ何かにあの女を利用するつもりだからだ。

イヤな予感がした。

ウルキオラは直感など信じるタイプではないが、イヤな予感がした。

立て続けに起こる予想外の展開。
まだ何かが起こる気がする。

早くここを出ねば・・・。


出てまずすることは決まっている。

あの女の確保だ。
これこそが、最重要命題だ。

邪魔する者は潰す。

これ以上予想外の展開など許すわけにはいけない。



そこまで思考を整理した段階で、次の段階に進むことになった。



すなわち・・・閉鎖空間の破壊である。



『・・感情など不要だ。


・・・少なくとも俺にはな。


そんなものがあるからこそ、計算が狂う。』



閉鎖空間に聞こえぬ壁のきしむ音がウルキオラには聞こえてきた。




なんちゃって。


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