夢の残り香(外科医、檜佐木修兵)

・・・深夜の巨大基幹病院、BLEACH。
静まり返っていた漆黒の仮眠室に、不意に耳障りな電子音が流れる。

漆黒の闇にポケベルの画面が光る。
「急患アリ。」

耳障りな電子音はなおも続く。
舌打ちとともに電子音が切られ・・そしてスタンドの電灯が点された。

現れたのは・・この病院に勤務する外科医、檜佐木修兵。
タフで正確な執刀をする彼は救急の当直をこなす回数も多い。

おそらく、病院内1,2をあらそう回数だろう。

先の救急患者への執刀を終え、仮眠についたのが30分前。
当直明けも通常勤務が待っている。

タバコに火をつけたいところをぐっと我慢する。
救急患者への対応は一刻を争う。
タバコを吸う暇はない。

寝巻き代わりのTシャツを脱ぎ捨てて、新しい術衣を持ったまま部屋の外に出る。
腕を通すのは歩きながらだ。
術衣の下は何も着ない。術衣の間からは見事な腹筋と胸筋が見えている。

通りがかった女性看護士は、顔を赤らめ、一応は顔を逸らしながらも、心の中ではガッツポーズを取っている。

そんなことは気にもしないように、修兵はICUへと向かっていく。
救急隊員及び看護師から手早く、患者の状態を聞く。
交通事故にあった患者だ。まだ若い。
頭部を強く打ったらしく、意識不明。
レントゲンを見ると、脳に出血が確認される。

頭蓋骨を切開し、脳の損傷部分を治療する。
時間はない。
後遺症を起こすかどうかは時間との勝負だからだ。




修兵の戦いが始まった。



1時間後・・オペ終了。
修兵の執刀は実に効率的だ。
迷いがなく大胆。そして正確。
そして早い。
出血が、脳幹部分に近かったため、神経を使ったが、成功を収めた。


手術を終えた修兵は独特の雰囲気を持つ。
医師としての戦いは終えても、高ぶった神経はすぐには収まらない。
普段無愛想な瞳は、肉食獣の輝きの色に変わる。
それが、彼の持つ無駄のない筋肉をもつ肉体と相まって、独特なオーラを発していた。

高ぶる神経は、修兵自身にも影響を及ぼす。
その高揚をを一旦沈めるためにも、修兵はオペの後、必ず水を浴び、タバコに火をつける。

上半身裸のまま、紫煙をくゆらせる。


・・・仮眠していた時・・。

修兵は夢を見ていた。

女の膝を枕にして眠っている夢だ。
女は大人の女だった。
喋らない。
ただ静かに、眠る修兵に膝を与えていた。

・・時折やさしく髪をなでる。

その手には、修兵を起こさぬようにという優しさが感じられた。

そして静かにタバコを吸っているのがわかる。
ライターで火をつける小さな音。
修兵を起こさぬよう、静かに煙を吐く息。

そしてまた修兵の髪をやさしく撫でる。


その繰り返しだ。



女の顔を見ようと目を開けようとしたところを・・あの電子音で目が覚めた。


修兵はその女に会ったことはない。
ただ・・ひどく懐かしかった。


その時、修兵の吸うタバコとは違うタバコの匂いが鼻を掠めた。
あの女の吸っていたものだ。


「・・・・。」
手に持ったタバコを口元に運び、深く吸う。
そして煙を天井に向かって吐き出しながら、こう呟いた。

「・・畜生・・ヤリてえな・・。」


深夜の医局には不謹慎な言葉ではあるが・・・。




幸いその呟きを聞く者は・・誰もいない・・。







なんちゃって。

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