人狼の贖罪(狛村左陣)

「きゃっ!!な・・なに・・?『アレ』!!」
「七番隊の隊長服・・・こ、狛村隊長?!!」
「う、うそだろ?あんなのアリかよ・・・!!」
「し!!そんなに見ちゃ失礼よ!!」

「けど・・・バケモノだぜ・・・。」

・・・・懐かしい反応だな・・。
この姿を面で覆うようになってからは久しく聞いていなかったが・・・。


この姿をはじめて見る者は大体同じような反応を示すものだ。
当然だ。
狼の姿をした者など、聞いたことも見たこともないであろうからな。

わしを見て驚かなかったのは、只一人・・・。
貴公だけであったな・・・東仙。

といっても、貴公は視力がないのだから、わしを見たことにはならぬであろうが・・・。


「東仙要だ。よろしく。」
わしは驚いた。笑顔と共にこのわしに握手を求める者がいるとは・・・。
このわしの姿を正面から見据え、笑顔で返すものがいるとは・・・。

理由は直ぐに分かった。
この男は目が見えないのだ。
だからこそ、このように平然として対応できるのだろう。

「しかし、君は気配を消すのが上手いな。
私は目は見えないが、人の気配がわからなかった事はないのに・・・。」
驚いたように言う男。そこに恐怖は全く感じられない。

気配を消すのが上手い・・・か。
当然だ。
この姿でこの巨体だ。
人の目に付かぬようにするためには、気配を消すくらいしかないのだから。

「・・ああ。済まん。・・・癖なんだ。」

・・・そうだ。
最早この身に染み付いてしまった癖なのだ。

それから、その男・・東仙とわしは簡単な自己紹介をした。
わしは恩義のある人に礼を言うために旅をしていると言うことを・・・そして東仙は真央霊術院というところの学生で、死神になるべく、励んでいることを・・・。
どうも、剣の方が苦手らしく、遅れを取り戻すべく自主練習をしていたところに、わしにぶつかった様だった。

「本当にすまなかった。怪我がなければいいのだが。」
「いいや。どうにもなっていない。心配はいらん。」

・・・・普通の会話。

初めての・・・普通の人として認められた・・初めての会話だった。

この男となら・・・友になれるやもしれぬな・・・。

ほのかな期待。
だが、この男とて、わしがどのような姿をしているか知ってしまえば、このような穏やかな笑顔は返すまい・・・・。

「では、わしはそろそろ失礼する。」
「ああ。気をつけて。また会おう。狛村。」
「・・・ああ。また。」

僅かな時間だった。
だが、一人の人間として会話することの出来た、至玉の時間だった。

あの男に・・・また会えるであろうか・・・・。

そして、わしはまた旅を続け、元柳斎殿にとうとうお会いすることになった。
「のう、狛村よ。おぬし、死神にならぬか?」
まさか、この方からお誘いを受けることになるとは思わなかった。

「わしはのう、死神になるための学院、『真央霊術院』の初代校長だったのじゃ。いきなりは難しいと思うゆえ、ある程度、予備の知識を身につけた上で、受けてみるとよかろう。

ただし、わしの知り合いと言えど、合否に色を加えることは出来ぬゆえ、しっかり供えるのじゃぞ?」

真央霊術院・・。
東仙が通うところだ。
今のまま過ごしていた所で、特に目的はない。
そして、死神になれば、このお方の恩義に報いることも出来るやも知れぬ。
そしてわしは元柳斎殿のお言葉をありがたく頂戴した。

しかしながら、その年の試験の応募締め切りは既に終わっていたため、わしが学院に入学できたのは、それから2年近くも経ったころのことだった。

あの男はいるだろうか・・。
会えばなんと言うだろうか。
入学してみれば、東仙は既に卒業して、念願の死神となり、護廷十三隊に入隊したと聞いた。

ならば、こちらも死神になるまでは東仙に会いに行くことはすまい。
同じ立場になり、改めて会いに行くとしよう。

そして、わしも学院を卒業し、護廷十三隊に入隊した。

ようやく・・・改めて会えるな・・。
東仙が所属するいう、五番隊の方へ歩いていた時だ。
・・・いた。
髪は少し伸びているようだったが、それ以外は変わらぬ。

驚くだろうか。
後ろから近づいた時だ。
東仙がくるりと後ろを振り返った。

気配を察知して、見えぬ視線を上に上げる。
そして驚いたような声を上げた。
「狛村?君狛村か?!
久しぶりだね!!」

覚えてくれていたのだ。
このわしを。
わしはまだ一言も話していないにも関わらす、気配だけでわしを思い出してくれたのだ。

嬉しかった。
人と再会することがこれほど嬉しいことであったとは・・・。

東仙の表情からは相変わらず、わしに対する嫌悪の欠片も感じなかった。
純粋な再会の喜びに満ちていた。

『友』というのは・・・このようなものなんであろうか・・・。
わしにも・・・友を持つことは許されるのであろうか・・・。

東仙はわしを対等な友として接してくれていた。
だが・・・東仙は知らぬから・・・友としていてくれるのだろう・・。
わしの本当の姿を知らぬから・・・。

学院に入ってからずっと顔を覆うようにはなったが、何かの拍子で顔を見られてしまうことはある。
その者はわしを恐れ、二度とわしと言葉を交わすことは無い。

東仙も・・・知ってしまえば・・・今のようには接してくれぬのであろうか・・。
だが、友と思うならばこそ、東仙には話すべきなのではないのか?
しかし、知らずにいたほうがよいこともあるのではないか?

わしは葛藤した。

初めて持った友を・・・失いたくなかった。
だが、友だと思うがこそ、真のことを伝えなければならない・・・。
わしのこの醜い姿のことを・・。
・・・誰かから東仙がわしのこの姿を知られる前に。

わしは決心した。

やはり・・・伝えねばならぬ。
それで、友と東仙がわしのことを呼ばなくなったとしても、それを受け入れねばならぬ。

「東仙・・・。」
「なんだい?」
「実は重要な話がある。」
「どうしたんだい?改まって。」

「実は・・・このわしは・・・このわしの姿は・・・。」
「言わなくていいよ。狛村。・・・・言わなくていい。」

「何故だ。」

「何故なら私の知る狛村こそが、真の姿だと思っているからだよ。
君は常に自分に厳しく、他のものには優しい。
そして、平穏であることを誰よりも願っている。

分かるんだよ・・・。

君の霊圧を感じれば分かる。

君は誰よりも優しく、自分を誰よりも律することのできる強い男だ。

・・・私の自慢の友だ。

・・・だから・・・言わなくていい。」

「・・・東仙。」
「これからも私の友でいてくれるかい?狛村・・。」
「・・・無論だ。・・・東仙。」

「私も言わなければらならないな。
私が盲目であることを知りながら、普通に接してくれたのも・・君くらいなものだったんだ。今まで言えなかったんだが・・。

だから・・・お互い様なんだよ。狛村。」


わしは・・・初めてこの時、真の友を得ることができた。


・・・そう思っていた・・・。



わしが、この命を懸けてもよいとさえ思っていた友は・・・。

・・・・わしを裏切った。


いや・・・わしが東仙を只理解できていなかっただけなのかも知れぬ。
一方的に、友と思い込んで、より理解しようとしていなかったのやも知れぬ。


わしはあの事件以来、顔を覆うことを止めた。

・・・これは贖罪だ。
東仙がわしを裏切ったのは、この醜い姿を隠しながらも、真の友を持てたといい気になっていた、わしの贖罪なのだ。

わしは東仙を理解できていなかった。
未だに東仙のとった行動は理解できてはおらぬ。

誰よりも志を同じくしていると信じてきた友・・・。

真実を見ねばならぬ。
そして受け入れねばならぬ。

だからこそ、このわしもこの醜い姿を隠すようなことはすまい・・。
わしは逃げん。
貴公がどのような真実を持っていたとしても逃げぬつもりだ。


笑いたくば笑え。恐れたくば恐れるがよい。

わしはどのような事があったとしても・・・。
貴公の目を覚まさせてやる・・・!!!


・・・東仙・・・・・!!!



事件の後、狛村の部屋にそれまでなかった物が運び入れられる。

それは・・・巨大な鏡だ。

それまで、鏡のなかった狛村の部屋。



鏡はその狛村の決意の現れである。




なんちゃって。


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