十番隊のお昼ご飯(ラーメン店「断崖」にて)
・・・それはこんな会話から始まった。
「隊長、今日のお昼何食べます?」
「そうだな・・・チャーシュー食いに行くか。」
「いいですね。じゃ、あいつらの顔でも見に行きません?」
「あいつらか・・・。ま、別にかまいやしねえけど。」
「じゃ!決定〜〜!!」
尸魂界のとある一角・・。
修兵が店主となっているラーメン店「断崖」・・・。
こってりとした豚骨醤油味が売りのこじんまりとした店だ。
その日の厨房は熱かった・・・。
外は寒さが増してきているが、中は開店至上最高の熱気を孕んでいた。
最も熱くなっているのが、店長である修兵。
真剣そのもので、漫画で表すなら、瞳の中に炎が描かれているはずだ。
店員の恋次と一護に、オーダーのチャーシュー卍解盛を任せ、自らは隠しメニューのチャーハンを作るべく、鍋を振る。
なぜならば・・・なぜならば・・・
本日の昼のお客様・・・。
十番隊、隊長及び副隊長。
いわずも知れた、日番谷と乱菊である。
乱菊の姿が見えたとたん、修兵のテンションが3段階上がった。
『乱菊さん!!来てくれたんですね!!』←すでにシロちゃんの姿は目に入っていない。
数ある昼どころから、修兵の店を選んでくれたのだ。
注)実際は、此処にこようと言い始めたのは、シロちゃん。
チャーシューが食べたかったらしい。
妄想モードがフルで空回転しそうになるのを必死で止める。
『そうだ!今の俺は妄想するよりも、もっとやるべき事がある!』
「ご注文は!!?」
乱菊に意気込んで尋ねた所に、すかさずシロちゃんの突込みが入った。
「普通、目上の俺から聞くもんだろうが、檜佐木。」
『ちっ!忘れてた!ちっこいの!←ヒドイ。
お前なんか、肉食ってりゃいいんだよ、どうせ卍解盛だろ?チャーシューの。』
修兵の心の声は既に暴走気味だ。絶対本人には言えないような事を心中では叫びまくっている。
「チャーシュー卍解盛で。」←でもやっぱり(笑)
「う〜〜ん、あたしは何にしようかな〜〜。」
「乱菊さん・・・チャーハンはいかがですか?
本来は裏メニューなんですが、特別に!!貴女の為に俺が心を込めて作ります!」
「う〜〜ん、じゃ、それ。」
この辺の付け入ろうとする気合は見事だ、修兵。(笑)
「・・檜佐木・・何で俺には言わねえ。」
度重なる店長の無礼に、シロちゃんもご機嫌ななめ。
「チャーハンに肉はあんまり入ってませんので。日番谷隊長。
恋次、一護、チャーシュー麺の方は任せたぞ?」←勝手に役割決めてるし。
「やれやれ、了解。」
「店長って、いつも乱菊さんが絡むとキャラ変わるよな・・。」
「一護!口を動かす暇があるなら、手を動かせ!
日番谷隊長をお待たせする気か?」←こんな時だけ、優等生モードに戻ったり。(爆笑)
材料を刻む音が聞こえる。
修兵だ。ものすごいスピードだ。
そして、速攻鍋が熱せられ、具材が宙を舞い始めた。
「・・腕は確かみてえだが・・・お前一人分にしちゃやけに多くねえか?あれ。」
日番谷が乱菊に問う。
「そうですか?あんまり気になりませんけど。」
日番谷が気になったのは当然だ。
どう見ても、鍋の中には10人前くらいの飯が踊っている。
当然鍋が重いはずだが、修兵自慢の上腕二等筋がものをいう。
鍋よ、振れ振れ、もっと振れ!
ここぞ、アピールチャンスとばかりに何時もより余計に鍋振りに励む修兵。
気合だけは、先に卍解に到達している!!
一方、肝心の乱菊はというと・・。
「隊長の、すごいですね〜!
一体何枚チャーシュー乗せてるんです?」
「・・ま、卍解盛だからな・・。」
・・・・まったく修兵を見ていなかった・・・・。←哀れ。
「へい、冬獅郎、お待ち。」
「・・何度言ったらわかる、日番谷隊長だ。」
「いいじゃねえか、呼び方くらいでガタガタ騒ぐなよ。」
「何が、くらいだ。けじめはけじめだ。」
「へい!乱菊さんお待ち!!」
負けじと修兵も乱菊のチャーハンを出す。
そのチャーハンは・・小山のようにこんもりと盛られた10人前チャーハンだった・・・。
見事な山の稜線はマッターホルンを思わせる。
「・・お前・・卍解盛頼んでたか?」
「いいえ?普通盛ですけど。」
そこに、修兵、魅惑のセクシーボイスで攻撃!
「・・・俺の・・気持ちです・・。乱菊さん。」←必殺技。
「あ、ありがと。←サラリと受けるだけの乱菊」
「食いすぎだ、お前は。太るぞ?」
「ええ?!!あたし太りました?」
すかさず、胸の肉を寄せる乱菊。
なぜ胸の肉を気にするのかは、最早乱菊しか分からない。
「ともかく、食うか。」
「そうですね、頂きましょう。」
日番谷の食うスピードは速い。
瞬歩ならぬ瞬食だ。
今日も箸の動きは絶好調。
育ち盛りの胃袋にあっという間に収まってしまった。
乱菊はまだ食べている。
それをちらりと見て、
「じゃ、俺は先に戻る。」
「あら、もう食べたんですか?試しにこれ一口食べてみます?美味しいですよ?あ〜〜んv」
「出来るか、そんなこと。じゃあな。」
さっさと支払いを済ませて戻る日番谷。
「もう〜〜、隊長ったら、カタイんだから〜〜〜。」
修兵チャ〜〜ンス!!
邪魔者は居なくなった!!ここでアタックだ!!
「旨いですか?」
「美味しいわよ?食べてみる?」
ふお〜〜!なんと言う展開!!やったな!修兵!!
あ〜〜んと口を開ける、修兵。
乱菊の運ぶスプーンが寄せられる!!
「なんてね!」
ああ〜〜!なんたることか!!乱菊!!
そのまま自分の口に入れてしまうとは〜〜!!
そのまま、さっさと食べ終わって帰っていった乱菊。
後には、極度の緊張と興奮の後に訪れた厳しい現実に、抜け殻となったラーメン屋店主の姿があった・・。
・・・・夢の夜の鍋振りまでの道は果てしなく遠い。
「たまには昼に『断崖』で食べるのもいいですね。」
「・・ま、味は確かだからな。」
とりあえずは、顧客満足を得られたことでよしとすべきだろう・・・。
なんちゃって。